プロガイドと行く荒天の西穂高

今日はプロガイドと2月冬山の西穂高独標へ挑戦する。
_新穂高ロープウエイで西穂高口山上駅に。屋上の展望デッキに出る、記念撮影。西には笠ヶ岳、東には焼岳、北東には西穂高岳の稜線。

 

西穂高山荘

_予約していたガイドさんを探しに階下の待合室へ。ストーブのそばで暖を取っている経験者らしい山男がいた。彼に近づき声をかける「西穂高山荘へ行かれるんですか」

_14時40分西穂高山荘へ向けガイドさんの後に続く。冬山用の重い登山靴で深雪を踏む。ガイドさんによると、昨日は踏み跡がなく大変だったらしい。30〜40分ぐらい歩いた頃、山の稜線に見える赤茶けた小屋を指し「あれが西穂山荘です」とガイドさん。

_なだらかな雪の登山道を一気下って、そして登りの連続。ガイドさんの足は速く、たまらず休憩を請い、呼吸を整えながら歩く。やがて、イチ、ニイとゆっくりと足を運ぶ登山者に追いつく。その顔を見るとかなりの年配者。大きなリュックを背負い「前回はピラミダルを目指したが氷に阻まれました。ピトンを打って挑戦したが、やむなく引き返ました」と。「今日のお泊りは西穂高山荘ですか」とガイドさんが声をかける。返ってきた答えは「テントです」 なな・・・なんと!!
_大きなリュックはキャンプ道具か。私は心肺機能が目一杯で、その対話中の僅かな時間を利用して呼吸を整えているというのに、恐れ入りました。

_その年配者を追い越し、16時24分2385mの西穂高山荘着。積雪3m。小屋の入り口前でリュックを降ろし雪を払う。山小屋に入って暖気触れ、椅子に座り込みペットボトルのお茶を飲む。「ホッ」...ロープウエイ西穂高口から約1時間40分。

西穂高山荘と焼岳

休憩の後、屋外で写真撮影。カメラを持つ指先が冷気で悴む。

山小屋目から霞沢岳を望む

 
_18時半登山者全員が一斉に夕食。山小屋の責任者が「21時消灯します。明日の朝食は6時30分です」続いて「明日の天候は荒れそうです」と!
19時30分頃、寝床に入るが、なかなか眠れず。0時、2時と目が覚める。

西穂高独標へ

写真撮影どころではなかった二日目

_5時30分ごろ起床。ガイドさんに促され6時30分朝食。山小屋の受付横の黒板に、「本日の天気は雪のち曇り&強風」と記してあった。天気予報を確認すると全国的に大荒れの様子。
_食事の最中、山小屋の管理人から本日の山の天気状況の説明がある。「強風のためロープウエイが止まるかもしれません。そのことを念頭に入れ行動してください」

_食後、ガイドさんが外の様子を伺い戻ってくる。「風が強いなあ…」と独り言のようにつぶやく・・・

_出発の準備をしていると、山小屋の従業員が「登られるのですか」と心配そうに私に声を掛ける。「プロが同伴ですので」と私。

冬山登山開始

_目出し帽に、冬山用の服装で山小屋を出る。雪の上で12本爪アイゼンを装着。ピッケルを持ってサングラスを付けようとした私に、ガイドさんから「凍って役に立たないから外すように」と注意される。さらに、雪を遮るためリュックカバーをしていたら、これもすぐに外すようにと注意。リュックカバーが風で煽られ、身体の自由が奪われ危険とのこと。俄かに信じがたかったがこれも外す。

_7時過ぎ山小屋を発つ。ガイドさんの後に続く。雪で埋没した山小屋の屋根の横から登り始める。雪に埋もれた「はい松」の上、凍てついた登山道を歩く。

_標高が上がるにつれ風は一層強くなり身体をあおる。ピッケルで身体を支えながら強風に耐えて歩く。ガイドさんが私のハーネスに無言でロープを掛ける。私はまだ大丈夫と思い「もうロープをするんですか?」とチト不満口調。「今日は荒天だから、もしものために早いめにしておきます」

_丸山を過ぎるまでは、1、2組の登山者もいたが、みんな山小屋へ引き返して行った。先を行くのは我々二人。

_強風と吹雪で顔をまともに上げられない。ネックウオーマーで口元が塞がれ呼吸するのもままならず。ガイドさんに引かれたロープの先を見ながらの苦しい登攀。
_たまりかねてネックウオーマーを顎まで下ろす。ときどき止まってビッケルを凍てついた山道に刺し、強風に背を向け前屈みになって身体を支え、呼吸を整える。その間にも容赦ない吹雪が私を煽る。止まっていてもエネルギーを消耗する。

_ロープを持って先導するガイドさんは、私が止まるたびにロープが張るのを感じ「大丈夫ですか」と声を掛けてくれる。これしきで諦められるかいな「大丈夫です。行きます」・・・それにしても苦しい。

_今回の登山は、私の予想を超えていた。ネックウオーマーを顎まで下ろしたとき、雪が頬に張り付く。前を行くガイドさんが戻ってきて、私の頬を見て凍傷になっていないか確認。大丈夫ですねと再び前進。凍傷など予想もしていなかった私に「顔を吹雪にさらさないように」と注意。片手で頬を覆いながら、もう一方の手で持つピッケルで身体を支え「負けるかいなあ!」と心で叫ぶ 。

独標手前でアイゼン外れる

_西穂独標手前の岩場に入ったとき、突然靴のアイゼンが外れる。突き出た岩に座り込む。足元は急斜面、踏み外せば 転落。呼吸は激しくアイゼンを自分で付け直す気力すら起こらない。先を行くガイドさんの姿が吹雪で霞んで見える。風の音にかき消されまいと大声でガイドさんを呼ぶ。
_彼は、すぐに気づき私の元へ。急斜面で身体を支え、私の前にかがんでアイゼンを付け直す。申し訳ない・・・念を押すように「大丈夫ですか」と私を伺う。

_「独標はあれですか」「そうです。いきますか」黒い岩塊の三角錐が吹雪で見え隠れする。それは人を寄せ付けない峻厳さだ。落ちたら一巻の終わり。私の疲れもピークを越えている・・・

_無理だ! 今日は諦めよう。「今回はこれで結構です。帰ります」「山は逃げません。また来ましょう」無念さがこみ上げる。どうすることもできない私がそこにいた。

_「では、戻りましょうか」ガイドさんは座り込んでる私を促す。ところが、私は目眩がして吐き気を催し、おまけに足の踏ん張りが利かず立つことすらできない。でも「気分が悪い」というのも格好悪く「少し待って下さい」とお願いする。

_西穂高山荘の山小屋が見えたときは、苦しさから解き放たれた安堵感で一杯になった。

山小屋帰還

_山小屋では6人ほどの登山者が帰りの身支度をしていた。管理人も登山者も、強風でロープウエイが運行中止にならないかが最大の関心事であった。ロープウエイはかろうじて動いているようであった。

_疲れきった私は、ゆっくりと重装備を解き下山の準備をしていると、早々に身支度を済ませたガイドさんは「すぐに出発しましょう」と。急ぐのは分かるが、もう少し休憩させて欲しいと云いたいところだったが、ロープウエイが運行中止になればと思うと返す言葉もない。

_相変わらずガイドさんの足は速い。走るように歩いて11時30分頃ロープウエイ西穂高口駅着。駅では、本日最終運行の改札を開始していた。滑り込みセーフ。12時前新穂高温泉駅。

ホテル穂高でガイドさんとコーヒーをすする。疲れて果てて放心状態・・・ガイドさん、ありがとう。まさに冬山であった。

後記
_自宅に帰って調べてみたら、登山日の荒天は、「二つ玉低気圧」の発生によるもであったことを知った。

 

 

 

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